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幼い楓と桜

 

夜。一人の少女が簀に立ち、夜空を眺めていた。
夏になったが、幸いにも今夜は風があり、過ごしやすい。
何となく寝付けず、こうして庭を見に来たが、あまりにも美しい夜空に、少女は見入っていた。
降ってきそうな星空を眺めていた彼女の耳に、聞きなれた音が聞こえてくる。

「…楓?」

かけられた声に、小さな足音が止まった。

「どうしたの、遠慮しないで入ってらっしゃい」
「…」
「私も起きていたからいいのよ」
「…ねえさま…」

ゆっくりと障子を開け、姿を現したのは、幼い女の子であった。
楓と呼ばれたその子は、おずおずと部屋を通り、姉の傍へ近寄る。

「ほら、楓。綺麗な星空でしょう」

姉の指につられるように、俯いていた視線を上げる。
少女の目に、銀色に輝く川が飛び込んできた。

「きれい…」
「今日はよく晴れているから、きっと織姫は彦星と会えたでしょうね」
「はい…」

上の空の妹に、ふんわりと微笑むと、姉の桜はそっと部屋に入った。
そして手に細い葉の連なる枝を持って戻る。

「ねえさま、それは?」
「七夕の飾りよ。楓はまだ見たことなかったかしら」
「はい」
「じゃあ、来年は一緒に作りましょう。とっても楽しいのよ」
「はい!」

そっと枝を欄干に立てかける。
夜風に笹の葉が揺れた。

「ねえさま、来年もはれるとよいですね」
「そうね…晴れるといいわね」

見上げた夜空に輝く星の、小さな光。
きらきらと輝くその景色を、飽きることなく姉妹は見上げるのであった。

 


(2013年7月8日)







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