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  ,5 マンションの監視カメラの映像

 

5月10  午後7時  804号室の少年が出てくる。水の入ったペットボトルを玄関前に置く。
 同日  午後7時半  805号室の少女が出てくる。804号室のインターホンを鳴らす。
            ペットボトルを倒し、水浸しになる。部屋に戻る。
 同日   午後8時  管理人が805号室のインターホンを鳴らす。少女と話す。
 同日  午後8時半  管理人が帰る。805号室の少女が廊下を片付ける。

 

少年は、食べた団子の余韻に浸っていた。
やはり美味しい。
どうということのない材料を使っているのだが、蒸し方も味付けも丁寧で、とても美味しかった。
自分でも作れそうな気もするが、これほどの口ざわりは再現できない気もする。
そんなことを考え、日記を書こうとノートを開いたとき、ふと、玄関前に何かあったのを思い出した。
黒色だったような、赤色だったような気がするが、あれは何だったのだろうか。
生き物だったような気はするが、詳細は覚えていない。
とりあえずの対策として、水の入ったペットボトルを置くことにした。
蓋は見つからなかったので、ついていない。

その30分後。隣室から少女が出てきた。
先ほど、司に食料を投げつけられたセイルーンである。
食事をして少し回復したのか、肌や髪に艶が戻っていた。
少し扉の前でためらっていたが、インターホンを押す。
…反応がない。
もう一度押す。…。押す。さらに押す。
扉の向こうに人の気配はあるが、もしかしたら寝たのかもしれない。
しかし、命の恩人にどうしてもお礼がしたかった少女はあきらめきれなかった。
玄関脇の窓を覗こうとしたとき、立てられていたペットボトルの一本に足がぶつかった。

「あ…」

少女が見守る中、ドミノ倒しのように、次々と倒れるペットボトルたち。
その総数10本。そしてその全てが蓋のないまま、中に水が入れられていた。

「わ、わわ!!」

あわてて立てようと手を伸ばすが、焦ってうまく掴めず、落としてしまった。
思わず、足で受け止めようとしたが、勢い余って蹴飛ばしてしまった。

「きゃっ!」

天井にぶつかり割れたペットボトルから水が飛び散る。
びしょぬれになってしまった少女は、騒ぎにも開かない扉を見ていたが、肩を落とすと自分の部屋へと戻っていった。

その30分後。監視カメラの映像を見た管理人に怒られる少女の姿があった。
命の危機はまぬがれたが、このままでは退去させられるかもしれない。
隣人へのお礼もまだなのである。
なんとしても、お礼をしなくては。
少女は自分でも気が付かない内に、少年に対して執着を持っているのであった。

 


(2013年5月9日)

 






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