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  ,5 ある伝説の兄弟

 

司には兄と姉がいた。彼らは司とは異なり、とくに面倒くさがることはなかった。
むしろ、面白いことに積極的に飛び込んだり、厄介事が好きな性質であった。
そんな兄、姉は、ある種、有名人だった。そして、司もまた、有名だったのである。

 

その日、不良たちはいつものようにコンビニ前でたむろしていた。
本当は、可愛い女の子をナンパしたり、気弱な学生に頼んでお金を借りたりしたい。
しかし、この近辺には、ある恐ろしい伝説を持つ兄妹がいた。
高原忍・雅という名前の二人は、めっぽう強かった。
どうやら格闘技を習っているらしいが、それ以上にいつも、タイミングよく現れるのである。
そして、彼らの邪魔をする。
暑さも手伝って、彼らは少し、イラついていた。

「なあ、お前知ってる?あの高原に弟がいるらしいぜ」
「はぁ?どうでもいいだろ、そんな話」
「でも、小学生らしいぞ。…そいつ捕まえて脅せば、あの二人も邪魔しなくなるんじゃね?」

それは犯罪である。
そもそも話題の兄妹も、彼らより年下なのだが、情けなくはないのだろうか。

「お前、天才じゃね?」
「あと、そいつの写真もある」
「ちょ、それはやるしかないだろ」

誰も止める気配がない。似たもの同士、思考回路も似ているのだろう。
小学生相手に誘拐を言い出した一人が、写真を取り出した。
そこには、ランドセルを背負い、面倒くさそうな表情をした男の子が写っていた。

「てかこれ、どうやって手に入れたんだよ」
「この前、高原兄に自慢されて、渡されたんだよ」
「え、お前大丈夫だったのか」
「や、そんときは何もしてなかったし」
「つか、弟の写真持ち歩いてるって、ブラコンじゃね?」
「うける〜」

口々に言い合う不良たちに、勇敢にも声をかけた人物がいた。
写真の少年である。

「そこ、じゃまなんだけど」

ランドセルの似合う小さな体だが、落ち着いた…というより、面倒くさそうな態度である。
片手には、コンビニで買ったらしき小さな袋を持っていた。

「あれ、コイツじゃね」
「お、ラッキー」
「なあ、お前。ちょっとこっち来いよ」

不良の一人が少年の手を掴もうとしたが、するりと避けられた。

「早くしないと、アイスがとけるんだけど」
「うるせぇ、大人しくしてろ!」

淡々とした少年の声に対し、苛立った様子で男は肩を掴もうとした。
そのとき。
ぐっと後ろに引かれ、何故か空が見えた。

「おい!何すんだ、お前!!」
「…アイスとけるから、かえる」

あっさりと不良の一人を倒した少年は、気にするようすもなくスタスタと去っていく。
その後、何度かリベンジをしようとした不良たちだが、一度、本気で怒った少年に意識を飛ばされ、それからは、伝説の高原三兄弟として、手を出さないようになったのであった。

 


(2013年5月11日)

 




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