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  4 少女の心のメモリー

 

その日、少女は一人の少年に助けられた。
そして、彼に恋をしたのである。

 

少女はその日、友人と遊びに行っていた。
話題の映画を観て、買い物をし、食事をしながら話していたら、遅くなってしまったのである。
過保護な父が、心配のあまりまた騒ぎを起こしかねない。
少女は普段つかわない、近道を通ることにした。

時刻は夜の10時過ぎ。
反対方向の友人は心配して、家まで送ると言ってくれたが断った。
駅の裏にある公園を抜ければ、家はすぐそこである。
駅から少し離れたその公園は、昼間は家族連れやカップルで賑わっているが、今は閑散としていた。
街灯が青白く光っている。
薄暗く、人気もないので夜は通らないようにしていたが、背を腹には変えられない。
少女は肩にかけている鞄の紐を握ると、小走りに抜けていく。

しかし、3メートルほど走って、息が切れた。
仕方なく、歩調を少し緩める。
公園を出たところにある、コンビニの明かりが見えてきた。
家も、もう近い。
安堵した少女は、少し体の力を抜いた。

そのとき、向こうから4,5人の男が歩いてきた。
派手な格好をして、ポケットに両手をつっこみ、蟹股であるきながら何事か話している。
彼女の苦手な人種だった。

目を合わせないように端に寄り、俯きがちに歩く。
しかし、男の一人に声をかけられた。

「あ、可愛い子発見〜」
「え、マジ?」
「ね〜ね〜。今からオレらと遊びに行かない?」

道を塞ぐように立つ男たち。
足がすくむが、逃げなければいけない。

「あの、急いでいるので…」
「そう言わずにさ」
「まだ10時じゃん、行こうよ〜」

慣れなれしく、肩を抱こうとする。
こんなとき、頼りになる友人がいれば、何とかしてくれただろう。
でも、助けてくれる人は誰もいない。
少女はぎゅっと、目を瞑った。

「そこ、邪魔なんだけど」

と、声がした。
自分を囲んでいる連中とは違う、落ち着いた話し方の男であった。

「あ?何だよ、おまえ…」

背後からの声に振り返った男は、途中で言葉を止めた。
他の男たちも、急に黙り込む。

「どいてくれる」
「は、はいっ!!」
「すいませんでしたっ!!!」

新たに現れた少年に、男たちは態度を変え、逃げるように去っていった。
何の特徴もない少年である。
しかし彼女には、白馬に乗った王子のように見えた。

ぼんやりとしていた少女が我に返ったとき、もう誰もいなかった。
さっきの人は誰だろうか。
コンビニの袋を持っていたから、家は公園の向こうかもしれない。
何処の誰かもわからない。分かっているのは顔だけ。
それでも少女は、彼を捜そうと、固く心に誓うのであった。

 


(2013年5月6日)






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