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  5 あるクラスの学級日誌

 

5月15日(水曜日) 天気:曇り

今日のアンネの髪型はポニーテールだった。
ピンクのシュシュがよく似合っていたが、うなじが見えているのが少し心配。
可愛すぎて困る。
2限の小テスト、どうやら皆かなり出来が悪かったようだが、あの子は満点だったらしい。
流石。また惚れ直した。
ただ、今日もあの男の話を10回もしていた。正直、気に入らない。


少女は微笑を浮かべながら、愛しい友人の話を聞いていた。
二人は一年前にこの女子高に入学したときからの親友である。

「それでね、司さんがね…」

恋する乙女の顔で語っているのは、少し幼い印象を与えるアンネ。
小柄でぱっちりとした二重が愛らしい彼女は、ふんわりとかわいらしい雰囲気である。
対照的に話を聞いている少女は、大人びていた。
一見、厳しそうに見える顔立ちも、今は微笑んでいる。
…いや、その目は笑っていなかった。
しかし、自分の話に夢中なアンネは、そんな友人に気が付かない。
彼女の名前は氷雨。このクラスをまとめる学級委員長だった。

「そうなの、よかったわね」
「うん!」

若干、棒読みになっている相槌にも、アンネは嬉しそうである。
恋は盲目。
しかし、友人が男に取られるのが気に入らない氷雨は、少し眉を寄せた。

「あの、委員長…」

そこに、クラスメイトの生徒が声をかける。

「何?」

クールな話し方だが、先ほどの不機嫌は綺麗に隠していた。
女性に優しいのは、彼女の特徴でもある。

「さっきの小テストなんだけど…」
「それなら、私よりもアンネに聞いたほうがいいわ」
「え、私?!」

引っ込み思案で、新しいクラスにまだ馴染めていない少女は、友人の言葉に戸惑っている。

「そうよ。よくできたって言ってたでしょう」
「う、うん…」
「あの…お願いしてもいい…?」
「…うん、いいよ」

少しぎこちないが、会話をしている親友に、氷雨は微笑んだ。
彼女が級友と仲良くなるのは、とても喜ばしいことである。
…しかし、それが男となると、途端に腹が立つのであった。

「今度、闇討ちでもしてしまおうかしら…」
「…?氷雨、何か言った?」
「いえ、何でもないわ」

 


(2013年5月12日)

 





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