6 図書館の貸出記録
5月16日(木)
2年1組 清水 氷雨 世界名作全集 13巻
2年1組 神埼 アンネ 初心者でもできる 簡単お菓子
意中の彼に思いを使える方法
恋のおまじない 初級
放課後。
私立の女子高校らしく、授業後とはいえ落ち着いた様子である。
グランドからは、運動部の声がするが、ここ、図書館はひっそりとしていた。
自習に励む生徒や、読書をする生徒。
アンネは目当ての本を探し、本棚の間を歩いていた。
その理由は、昼休みに遡る。
今日もいつものように、友人である氷雨と昼食をとっていた。
父が毎日作ってくれる弁当は、ありがたいが、ファンシーな盛り付けが少し、恥ずかしかった。
ふと、友人の弁当に目がいく。
4月、最初はシンプルだった彼女の弁当は、最近では父のものと張るほど、ファンシーな見た目をしている。
毎朝、自分で作っているというのだから、驚きである。
頭もよく、落ち着いていて、料理の得意な友人を、アンネは尊敬していた。
「で、相談って何なの?」
「うん…司さんのことなんだけど…」
偶然助けられたその日、帰りの遅い娘を心配する父を尻目に、彼女は持ちうる限りの伝手を使い、少年を捜した。
娘に構って欲しい一心の父の協力もあり、名前他、情報は手に入った。
しかし、彼はあまり、好きなものがないようなのである。
唯一、お菓子が好きらしいので、何かと買ってはプレゼントしているが、もっと喜んでもらえることがしたかった。
「お菓子ね…じゃあ、アンネが作ってみたらどうかしら」
「え??む、無理無理!!私、お料理できないし!」
「教えてあげるわよ、大丈夫」
そう言ってにっこり微笑む氷雨。
友人に頼ってばかりなのは申し訳なかったが、自分ひとりでは、とてもではないが手作りなんて無理だろう。
「ありがとう」
「じゃあ放課後、図書館で本を借りましょう。確かレシピもいくつかあるはずだから」
という事なのである。
普段はあまり図書室に来ないアンネだったが、その豊富な蔵書に驚いていた。
しかも、恋愛指南書のような、学校の図書室にそぐわない本も置いてある。
とりあえず持ってきてしまったが、誰がこんな本を置いたのだろうか。
「この本がお勧めよ」
別の本棚を見ていた氷雨が、一冊の本をアンネに渡した。
表紙には、美味しそうなプリンが載っている。
「練習するなら、家に来る?今日は何も予定が無いのよ」
「いいの?!」
「もちろん」
「ありがとう、氷雨」
自分もこんなお菓子が作れるだろうか。
少女の胸は期待に膨らむのであった。
(2013年5月15日)