プロローグ 岩の上の影
一人の男が岩の上に腰掛けていた。
風に、白いゆったりとした袖が揺れる。
遠くへと向けられたその目は、金色をしていた。
ふと、男が顔を上げる。
「何者か来たな…異邦人か」
そう呟くと目を閉じる。
そんな男に、背後から声をかけた人物がいる。
「何もしないのかね」
「…ああ。まだ必要ないだろう」
「ふむ…今はまだ、ということかな」
のんびりとした声の持ち主は、軽く跳ぶと男の隣に立った。
「それで、どんな子なんだい」
「…さてな」
そう言い残し、男は岩から飛び降りた。
しかし、岩の下にその姿はない。
「面白くなりそうだね」
呟いた声は風に消えていった。
ある初夏の午後。
空から明るい光が降り注いでいた。
(2013年5月19日)