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  第10話 ジャパニーズ文化


司が先頭を行き、その後ろに狛に乗ったアンネ、白い生き物の群れ、セイルーンと続く。

「伯は、狼の群れの長なんだぞ」
「そうなんだ」
「すっげ〜つよいんだ」
「そうそう、きをたおし、いわをくだき!」
「たきをぎゃくりゅうしててんにのぼるとかのぼらないとか」
「それ、おやじのはなしだろ?」
「ちがうちがう、はくだって」

適当なことを適当な口調で話している。

「…本当なんですか」
「俺も先代も、滝を逆流することはできないな」
「岩と木はできるんですか」
「ああ」

ただ、体の大きな狼というわけではないのだろう。
杏や棗が狐だというように、狛もどこか普通の狼とは違うということだろう。
そうやって話している間、ずっと気にしないようにしていたが、とうとうアンネは言った。

「いつまで見てるのよ」
「へ?…あ!ご、ごめん」

セイルーンである。
何も言わないまま自分をじっと見つめる視線に、我慢の限界がきたのだった。

「珍しいのはわかるし、気になるのもわかるけど、無言で見るのはやめてちょうだい」
「ご、ごめんね。ちょっと日本のアニメ思い出して…」
「あにめ?」
「狼の背中に乗ったヒロインが出てくるアニメあるでしょ」
「えっと…」

でしょ、と言われても困る。
あまりアニメや漫画に興味のないアンネは知らなかった。
司なら知っているかもしれないと、そちらを見ると、目が合った。
思わず頬に血が上る。

「あ、あんねがあかくなった」
「あれだよ、ほのじだ」
「お〜、せいしゅんですな〜」
「お前たち、静かにしていろ」

ひそひそと話す白いものと、それを嗜める狛の声もアンネには聴こえない。

「ナウシカ?」
「ちがうよ、それは王蟲とかキツネリスだもん。もののけ姫だよ」
「ああ…」

やたら詳しいセイルーンに、何となくアンネは嫌な予感がした。
社でよくわからない説明をされたことを思い出す。

「ね、アンネちゃん!コスプレしてみない?」
「は?」
「原作の凛々しいサンとはまた違う、可愛さがいいと思うんだよね」
「何言ってるの?」
「そしたら私はエボシやるし」
「…」

思わず、無言になった。

「ね、狛さんも見てみたいでしょ」
「さあ、どうだろうな」

突然、話を向けられてもさらりとかわす狛は流石である。
こうして、セイルーンについてアンネはひとつ詳しくなった。
日本の情報を、変なところだけよく知っているということである。

「司くんは?」
「別にいいんじゃない」

どちらともとれる言葉を残し、再び歩き始める。
どうしても遅れがちだったアンネが狛に乗っているから、一行の進むスピードは上がっていた。
前方には切り立った崖が見える。
その途中に、細い砂利道のようなものがある。
その先はどうやら、山頂に続いているようであった。
現代に戻る、その旅も終わりを迎えようとしていた。

 


(2013年7月5日)

 





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